徒然なるままに ~島へのあこがれ~

 

徒然なるままに ~島へのあこがれ~

 徒然なるままに、ひぐらしパソコンに向かっていると、ある島の事を思い出しました。

 日本の島で、物理的には行けるのですが、一般の人が中々行くことが出来ない島は何処でしょう?イヤにもったいをつけたクイズ見たいですが、正解は“硫黄島”です。現在は海上自衛隊の基地になっていて、許可が無ければ入れません。これを読んでいる方も先ず、行った人は居ないでしょうね。実は、私は今から30年ほど前、取材で行く機会に恵まれたのです。元々、“島”という単語には椰子の樹が南国の風に揺れて、、、というイメージがあって好きなのですが、これまで訪れた島の中で一番の想い出は、この硫黄島。第二次世界大戦の激戦地(硫黄島の戦い)、後々映画にもなりました。

 島への憧れの発端は、小学生の頃、講談社の分厚い本で読んだアレクサンドル・デユマの「岩窟王」。無実の罪に陥れられたエドモン・ダンテスがシャトー・デュフの牢獄を脱出、モンテクリスト島で財宝を発見して自分を罠にかけた敵に復讐していきます。大人になってからは文庫本で繰り返し読みました。「モンテクリスト島」のような島があると良いな、と思いつつ。財宝は無くても“島”という言葉には何かひきつけられるものがあります。

 さて、今は海上自衛隊しか居ないはずの、この島に何故?とお思いでしょう。
1987年3月21日、姉妹都市である大阪とオーストラリア・メルボルンの間で、初めてのヨットレースがスタートしました。60艇余りのヨットがメルボルンをスタートして南太平洋を北上します。大阪とメルボルンの間、約1万200キロをほぼ一か月かけて航海するという壮大なレース、大阪には4月23日に最初の艇がゴールインするのですが、この間、硫黄島の南海上で先頭を行くヨットを撮影取材しようと、カメラマンと記者、そして上空からの実況録画という事でアナウンサーの私が同行する事になったのです。元より空を飛ぶのは大好き、しかも硫黄島で給油すると言うのですから堪りません。仕事を忘れて興奮していました。

 ある日の早朝、先ず伊丹空港から羽田港空港へ、次にフジ・サンケイグループ所有の双発ジェットに乗り換えます。駐機場での乗り換えも初めてですが、この双発ジェットには驚きました。機体は鮮やかなピンク、胴体にはシンボルの“目玉マーク”がくっきりと描かれています。

 硫黄島は小笠原諸島の南端に位置する東西8キロ、南北4キロの、れっきとした東京都の島です。東京からは南へ約1200キロ。今は海上自衛隊の基地のみ、民間人は住んでいません。双発ジェット機に乗るのは初めての経験で硫黄島に着くまでは仕事がなく、ただただ広い太平洋を飽きず眺めました。

 飛行時間はどれくらいだったか、定かな記憶はないのですが、快適なフライト、滑るような着陸であったのは憶えています。
島に降り立つと、その名の通り、硫黄の匂いが鼻をつき、南国特有の湿り気を帯びたモワッとした空気に包まれます。辺りを見渡すと椰子の林があり、その先には太平洋が広がっています。“島“好きの私にとっては堪らない光景です。できれば2,3日滞在したいところですが、、、、“にこやかに”自衛隊員が駆け寄って来ます。民間機の着陸は勿論珍しいでしょうし、良く目立つ機体、他の場所で作業をしていたという隊員たちが次々に見物に来ました。「あのピンクの飛行機はナンだ?」と。

 給油とともに、基地の協力を得てヨットレース参加の船はどのあたりを帆走しているのかを調べます。「アルゴス・システム」を使って位置が解るというのです。羽田から持参の弁当を食べて再び太平洋に飛び立ったのは約1時間後、眼下はただ大海原、島影ひとつありません。こんな広い海上で豆粒のようなヨットが果たして見つかるのか、大いに不安でしたがパイロットと副操縦士はあっちだの、こっちだのとまるで地上に居るみたいに指さしているのです。そしてとうとう先頭を行くヨット“波切大王”を発見したのです。「凄いなぁ」よくもまぁ見つけるものです。驚きと感動の間もなく、今度は降下して撮影と実況録画です。サンケイ新聞のカメラマンも同行していたので新聞写真用、テレビ用と何度となく旋回を繰り返し、無事取材を終えました。

 ヨットレースは、その波切大王が4月23日午前7時6分、大阪北港マリーナ沖に第一位でフィニッシュ、当時の記録をインターネットで見ると、歓迎艇に囲まれ、1000人が出迎えた、31日19時間6分26秒の航海とあります。秒までカウントするのは放送か、競走の世界だけかと思っていましたが、ヨットの世界でも使われているのに驚きます。更に、最終艇がフィニッシュしたのが5月23日だそうです。スタートから62日(約二か月)間でようやくレースが終了するという“気のなが~い”お話でした。

如何でしたか?コロナ禍で気の滅入るこの頃、少しは“壮大”な気分になれたでしょうか?                   出野徹之(KTV)

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